クォーツショックとはなんだったのか?──機械式時計ヘッズになるための薀蓄コラム
クォーツショックは、クォーツクライシス、またはクォーツレボリューションとも呼ばれる
クォーツショックはSEIKOからはじまった
まずクォーツ時計とは、電圧を加えると正確に振動するクォーツ(水晶)の性質を生かした時計のこと。そして、時計に関する記事、とくに名門時計ブランドの歴史を掘り下げた記事などには、“クォーツショック”という言葉がしばしば登場する。これは日本の〈SEIKO(セイコー)〉が1969年に世界初のクォーツ式腕時計を発表したことに端を発する、時計界の一大パラダイムシフト(最大の転換期)のことだ。クォーツ式腕時計が登場する以前、時計ブランド各社は昔ながらの機械式ムーブメントで高精度を叩き出すことにずっと腐心していた。もっとも、ゼンマイの代わりに電池を用い、テンプの往復運動ではなく水晶振動子が発する電子的振動にて精度を制御するクォーツ式が、機械式に比べて格段と精度を向上させることは、いくつかの時計ブランドが気づいていたようだ。しかし水晶振動子の小型化が難しく、それを初めて腕時計サイズで実現したのが、〈SEIKO〉が1969年12月25日に発表した「クオーツアストロン35SQ」だったのだ。
当初こそクォーツ式腕時計は高価だったが、機械式時計に比べてはるかに量産に向くこと、さらに〈SEIKO〉が特許権利化した技術を公開したこともあって、次第に価格が下がっていく。これにより爆発的に普及し、1970年代、スイスの時計業界は壊滅的打撃を被ってしまう。
その後クォーツは実用時計のスタンダードとなっていくが、一方で歯車とゼンマイのみで正確な時を刻む機械式時計の価値や味わい、ロマンに再び着目する人も徐々に増え、80年代後半には休眠していたかつての名門ブランドも続々息を吹き返していく。90年代に入ると、自分のセンスやこだわり、さらにはステイタスを示す嗜好品として機械式時計人気はさらに加速。そのムーブメントが今に至るまで続いているわけだ。