SEIKO にジェラルド・ジェンタのデザインがあるって知ってた?──機械式時計ヘッズになるための蘊蓄コラム
1979年に発売された「クレドール・ロコモティブ」。〈SEIKO(セイコー)〉は公表していないが、絶対にジェンタデザイン!
かのパブロ・ピカソ(Pablo Picasso)は生涯で14万7800点の作品を作ったそうだが、時計界のピカソと評されるジェラルド・ジェンタ(Gerald Genta)もこれまたすごい。誇張の可能性はあるものの、生前、ジェンタは「少なくとも10万を越える腕時計を設計した」とインタビューで答えている。
この時計界の天才の膨大なウォッチデザインのなかでも、とくにジェンタ自身が思い入れがあるであろうと思われる3本がある。潜水艦にモチーフにした〈Patek Philippe(パテック フィリップ)〉の「ノーチラス」と、戦艦の舷窓を範を取った〈Audemars Piguet(オーデマ ピゲ)〉の「ロイヤルオーク」と、蒸気機関車にインスパイアされた〈SEIKO(セイコー)〉の「クレドール ロコモティブ」だ。ジェンタが発行した公式のミニ作品集に、超名作の「ノーチラス」と、同じく超名作の「ロイヤルオーク」に並んで、「クレドール ロコモティブ」が掲載されているのだ。
ちなみに、クレドールとは、1974年に誕生した〈SEIKO〉のハイエンドラインだ(話は脱線するが、クレドールのヴィンテージは今後もっともっと評価されそう)。そしてロコモティブとは、機関車という意味と、フランス語で牽引力になるという2つの意味がある。で、この「クレドール ロコモティブ」は、1979年に5000本発売されたクオーツのモデルだ。10気圧防水、3針、カレンダー付きで、非常に実用的。〈SEIKO〉は、「クレドール ロコモティブ」をジェンタ・デザインと公式で謳っていないが、ジェンタによるスケッチ画も見つかっているので、ジェンタ・デザインであることは明らかだ。ベゼルやビズの6角形なデザインも、ジェンタ・デザインであることを物語っている。
じつは、筆者は探しに探して、松屋銀座のアンティークウォッチ市で、この「クレドール ロコモティブ」を見つけ手に入れた。実際に付けてみると、“6角形のロイヤルオーク”な雰囲気だが、あれらラグスポ時計の超名作と違ってケースとブレスが一体化していない。そこだけ、ジェンタにしてはデザインの詰めが甘いな、と思ったけど、使っているうちに、これはダイヤモンドを止める爪のようにデザインされていると思ったら、これまたとても革新的な1本に思えてきた。